世界の蝶を地域ごとに見ていると、その地域特有の蝶が生息していることに気づきます。このように共通した動物が生息する地域を分類すると、大きく6つの地区に分けることができます。この発想は1858年にスクレーター(Sclater)が鳥の分布を研究して地域ごとの特徴に気づいたことに始まります。その後、ウォレスによって1876年ごろに次のような区分けがされました。この区分けは生物地理区と呼ばれ、昆虫に限らずさまざまな生物がこの地理区ごとに特徴を持っています。
なぜ地域ごとに特徴的な蝶が生息しているのかは、大陸移動が関係していると考えられています。現在の大陸は、かつてパンゲアと呼ばれる一つの大陸でした。そこに生息していた蝶の祖先が、やがて分裂した各大陸で独自に進化したと考えられています。
地図: 世界の生物地理区
全北区(ぜんほくく)
全北区(ぜんほくく)は、ユーラシア大陸を主体とする旧北区(きゅうほくく)と北アメリカ大陸の新北区(しんほくく)を合わせた広大な地域を指します。この地域には、ウスバアゲハ類やキアゲハ類、モンキチョウ類、ベニシジミ類などの代表的な蝶が生息しており、それぞれの地域で異なる亜種や種に進化しています。東南アジアを除くユーラシア大陸、北アメリカ、サハラ砂漠以北のアフリカを含むこの地域は、北半球の温帯・冷帯・寒帯が広がり、多様な生息環境を形成しています。気候や地理的条件の影響を受けて、蝶の分布や進化に独自性が見られることが特徴です。
この地域では、蝶の研究が盛んに行われています。特に中国では新種の発見が相次ぎ、全北区における蝶類の多様性の理解が進んでいます。現在、この地域には約2000種類の蝶が確認されており、日本では約270種が生息しています。全北区における蝶類の研究は、生物地理学や進化生物学の分野で重要な役割を果たしており、地理的要因や気候変動が蝶の進化と分布に与える影響を明らかにすることが期待されています。
旧北区(きゅうほくく)
旧北区(きゅうほくく)は、ユーラシア大陸全域、サハラ砂漠を含む北アフリカ、日本を含む広大な地域を指します。この地域は地理的に多様で、北極圏から亜熱帯に至るまで、さまざまな気候帯をカバーしており、特に温帯地区では四季がはっきりしていることが特徴です。このような気候条件により、多種多様な蝶が生息し、地域ごとに異なる生態系が形成されています。
旧北区では、蝶の研究が盛んに行われています。近年では、中国でも研究が進み、新種の発見や分布の解明が加速しています。この地域には、ウスバアゲハ類やベニシジミ類、ヒョウモンチョウ類など、全北区全体に広く分布する蝶が多く見られます。これらの蝶は、それぞれの地域で異なる進化の歴史をたどり、独自の亜種や種を形成しています。
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新北区(しんほくく)
新北区(しんほくく)は北アメリカ大陸全域を指し、地理的にも生態的にも独特の特徴を持つ地域です。この地区の蝶は、比較的新しい進化を遂げた種類が多いことが特徴で、キアゲハ類やヒョウモンチョウ類が代表的です。これらの蝶は、北アメリカの多様な環境に適応し、それぞれの生息地で異なる形態や生態を持つようになりました。
新北区には約700種類の蝶が生息しており、北アメリカ全体に広がる森林、草原、砂漠など、多様な生息環境に対応した種が見られます。この地域の蝶は、極地から温帯までの広い気候帯に分布し、それぞれの地域で特有の姿を見せています。
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熱帯アフリカ区
熱帯アフリカ区(ねったいアフリカく)は、サハラ砂漠以南のアフリカ大陸とマダガスカル島を含む地域で、約4000種類の蝶が生息しています。この地域は熱帯気候が多く、フタオチョウ類やホソチョウ類など、個性的な蝶が多いことが特徴です。特に、フタオチョウ類は鮮やかな色彩と力強い飛翔で知られています。
また、マダガスカル島は独自の進化を遂げた蝶が数多く生息しており、その特異性から独立した生物地理区として扱われることもあります。この島には、島固有の植物を食草とする蝶が多く、他の地域では見られないユニークな種が数多く存在します。熱帯アフリカ区全体として、地理的条件や気候の影響で多様な蝶の生息環境が形成されていることが、この地域の大きな特徴です。
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東洋区
東洋区(とうようく)は東南アジアを中心とした地域で、約2900種類の蝶が生息しています。この地域は、多くの島々から成り立っており、各島ごとに独自の蝶が進化している点が特徴です。特に、インドネシアやフィリピンの島々では、それぞれの環境に適応した多種多様な蝶が確認されています。
東洋区では、ワモンチョウやアゲハチョウ、シジミチョウなどの仲間が繁栄しており、その中でも特に美しい翅を持つ種が多いことで知られています。この地域の蝶は、熱帯雨林や山岳地帯などの環境で多様な進化を遂げており、生態学的にも非常に興味深い地域です。
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オーストラリア区
オーストラリア区(オーストラリアく)は、オーストラリア大陸とニューギニア島を含む地域です。この地域には、世界最大級の蝶であるトリバネアゲハ類をはじめとする大型の蝶が多く見られます。特に、ニューギニア島周辺ではカザリシロチョウ類やヤドリギシジミ類などが豊富で、熱帯地域ならではの多様な蝶が生息しています。
一方で、オーストラリア大陸自体は大部分が乾燥地帯であるため、その面積の割には蝶の種類が少なく、約1000種類程度にとどまっています。しかし、限られた環境の中で独自に進化した種が多く、オーストラリア区全体としてユニークな蝶の生態系を形成しています。
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新熱帯区
新熱帯区(しんねったいく)は、南米を中心とした地域で、世界で最も蝶の種類が豊富な地域です。約8000種が確認されており、特にアマゾンからアンデス山脈にかけての地域には多くの蝶が集中しています。この地域では、鮮やかな色彩を持つ蝶や独特の模様を持つ種が多く、自然愛好家や研究者を魅了しています。
新熱帯区の蝶には、モルフォチョウやドクチョウなど、華やかで観賞価値の高い種が多く含まれます。これらの蝶は、熱帯雨林の生態系で重要な役割を果たしており、花粉媒介者としての機能や食物連鎖の一部として生態系に大きな影響を与えています。
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世界共通の蝶
世界中に分布する蝶には、ヒメアカタテハやオオカバマダラがいます。モンシロチョウも中国原産ですが、現在では広く分布しています。
ヒメアカタテハ と オオカバマダラ