蝶の分類
■蝶は共通した特徴をもとに、グループ化することが出来ます。ここでは、色々な蝶がどの様にグループされているかをご紹介します。
蝶の種類
全世界に蝶の仲間は約18,000~20,000種類いる、と言われています。種類数が特定できないのは、まだ発見されていない種類がいると思われているのと、学者によってある蝶を1種にしたり2種にしたりするからです。
このように、種類数が不安定である理由は「種」の定義がどうしてもハッキリしないからです。そもそも自然界には「分類」など無いのですから、これは仕方がないことです。また、生物は常に進化していると考えると、これから分離して、違う種類に進化していくグループや、逆に二つのグループが一つとなって同じ種類になるグループが現在いる事が予想され、今ある種が、今後その種のままでとどまっているとは限らないわけです。(種の進化については、種の進化についてのページを参照してください。)
また、まだまだ発見されていない種も沢山いるとされています。蝶は昆虫の中で最も研究されている仲間ですが、実はまだまだ分からないことが多いのです。また、すでに発見されていた種類でも、サトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲや、アカシジミとキタアカシジミの例の様に、あとから一つの種類であったと思われていたものが、実は二つの種であったことが発見されたりします。
分類単位について
分類(ぶんるい)は、まず「種(しゅ)」が基本です。種とは、何匹かの昆虫が、共通の形態や性質を持ち、その雌雄が野外で自由に自然に交尾し、受精卵が異常なく成虫まで育ち、しかも代々健全な子孫が育っていく個体群を指します。一方、種の中で個体変異(こたいへんい)が見られることがあるので、形態については共通である必要がないと考える学者もいます。
同じような特徴を持った種を集めて、「属(ぞく)」という単位でまとめることが出来ます。そして、同じ特徴を持った属を「科(か)」でまとめ、科も同じようにまとめて「目(もく)」にして・・・といった感じでまとめていくと、最後は、「動物」と「植物」にまとまります。
種、属、科、目などのグループの単位を、分類単位(ぶんるいたんい)」と呼びます。その関係は以下の通りとなります。
界(かい)Kingdom
門(もん)Phylum
綱(こう)Class
目(もく)Order
科(か)Family
属(ぞく)Genus
種(しゅ)Species
ここのホームページでもそうですが、蝶の分類場合、上記だけでなく、更に細かい分類単位が使用されることが多く見られます。例えば、科と属の間に「亜科(あか)」が設けられ、更に亜科と属の間に「族(ぞく)」を設けるなどです。よく研究される蝶のグループほど、より細かく分けられる傾向にあります。
5種類の蝶たちの分類を例に見てみましょう。
分類単位 |
モンシロチョウ |
アゲハチョウ |
ウスバアゲハ |
ギフチョウ |
ヒメギフチョウ |
界(かい) |
動物界(どうぶつかい)
Animalia |
動物界
(Animalia) |
動物界
(Animalia) |
動物界
(Animalia) |
動物界
(Animalia) |
門(もん) |
節足動物門(せっそくどうぶつもん)
Articulata |
節足動物門
(Articulata)
|
節足動物門
(Articulata) |
節足動物門
(Articulata) |
節足動物門
(Articulata) |
綱(こう) |
昆虫綱(こんちゅうこう)
Insecta |
昆虫綱
(Insecta) |
昆虫綱
(Insecta) |
昆虫綱
(Insecta) |
昆虫綱
(Insecta) |
目(もく) |
鱗翅目(りんしもく)
Lepidoptera |
鱗翅目
(Lepidoptera) |
鱗翅目
(Lepidoptera) |
鱗翅目
(Lepidoptera) |
鱗翅目
(Lepidoptera) |
科(か) |
シロチョウ科
(Pieridae) |
アゲハチョウ科
(Papilionidae) |
アゲハチョウ科
(Papilionidae) |
アゲハチョウ科
(Papilionidae) |
アゲハチョウ科
(Papilionidae) |
亜科(あか) |
シロチョウ亜科
(Pierinae) |
アゲハチョウ亜科
(Papilioninae) |
ウスバアゲハ亜科
(Parnassinae) |
ウスバアゲハ亜科
(Parnassinae) |
ウスバアゲハ亜科
(Parnassinae) |
族(ぞく) |
シロチョウ族
(Pierini) |
アゲハチョウ族
(Papilionini) |
ウスバアゲハ族
(Parnassini) |
タイスアゲハ族
(Zerynthini) |
タイスアゲハ族
(Zerynthini) |
属(ぞく) |
モンシロチョウ属
(Pieris) |
アゲハチョウ属
(Papilio) |
ウスバアゲハ属
(Parnassius) |
ギフチョウ属
(Luehdorfia) |
ギフチョウ属
(Luehdorfia) |
亜属(あぞく) |
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クロホシウスバ亜属
(Driopa) |
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群(ぐん) |
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アゲハチョウ群
(xuthus group) |
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種(しゅ) |
モンシロチョウ
(rapae) |
アゲハチョウ
(xuthus) |
ウスバアゲハ
(glacialis) |
ギフチョウ
(japonica) |
ヒメギフチョウ
(puziloi) |
亜種(あしゅ) |
日本亜種
(crucivora) |
なし |
原名亜種
(glacialis) |
なし |
日本亜種
(inexpecta) |
蝶の主な分類単位の特徴は、次の通りです。
動物界(どうぶつかい)・・・動物界と植物界の二つがあり、蝶は動物の仲間に含まれます。
節足動物門(せっそくどうぶつもん)・・・外骨格(がいこっかく)で、体に節がある動物が節足動物門に入ります。犬や猫などは、脊椎(せきつい)をもった、脊椎動物門(せきついどうぶつもん)に分類されます。
昆虫網(こんちゅうこう)・・・頭、胸、腹の3つの体からなり、頭部には触角が1対、胸部には脚が3対あるもの。いわゆる「昆虫」と呼ばれるグループで、昆虫綱以外には、クモやカニなどのグループがあります。
鱗翅目(りんしもく)・・・胸部に2対の大きな羽を持ち、その羽に鱗状の鱗粉(りんぷん)を有しているもの。完全変態(かんぜんへんたい)をする。蝶と蛾はこのグループに入ります。群と亜属はほとんど同じ分類単位とも言えます。
亜種とは?
蝶の種類を調べていると、よく亜種(あしゅ)という分類が使われます。これは同じ種類でありながら、違った特徴を持つ個体群(こたいぐん)を指すものです。基本的に、それぞれの亜種が地理的に離れていることが亜種とされる条件の一つです。島や山など、孤立する条件がある場合によく亜種が見られます。種と同じで、亜種の定義も学者によって変わりますので、まだ曖昧なところがあります(そもそも亜種を認めない学者もいます)。また、詳しく研究されている種類であればあるほど、細かく亜種に分類される傾向があります。たとえば、ヨーロッパに生息するアポロウスバParnassius apolloはわずかな特徴の違いで、70亜種以上に細かく分類されています。
▲ヨーロッパのアポロウスバ
東南アジア広くに生息する、ルリモンアゲハPapilio parisを見てみましょう。下の写真は左から台湾、スマトラ島、ジャワ島で見られるルリモンアゲハたちです。見てわかると思いますが、それぞれ翅の模様が違います。これらはすべて同じ種類とされていて、大昔にそれぞれの島に取り残され、独自に進化してこのようになったと考えられています。ではどうして違う種類ではないかというと、それは体の特徴や、卵や幼虫といった幼生期の特徴が共通している事、そして最近ではDNAの比較でそれぞれとても近い関係にあるとされているからです。そして、種の条件にあるように、それぞれを交配させると、ちゃんと卵から成虫まで育ちます。
▲ルリモンアゲハの亜種
左から台湾産hermosanus亜種、スマトラ島産battacorum亜種、ジャワ島産tenggerensis亜種
一方でルリモンアゲハにとてもそっくりな、カルナルリモンアゲハPapilio karnaという種類がいます。これはルリモンアゲハの亜種ではないのでしょうか?これには亜種として扱えない事実があるのです。それは、カルナルリモンアゲハはルリモンアゲハが生息している場所にも見られるということです。同じ場所に2つの個体群が発生していて、それぞれが混ざることなく発生を繰り返している場合、それは種の定義の「自然に交配する」事をしないということになり、同じ種とはならないのです。
▲カルナルリモンアゲハ
変な例ですが、種と亜種の考え方は「言葉」に似ています。話が通じる=交配できる、とすると、日本語という種類があって、それぞれ離れた場所で発展した関西弁や九州弁などの亜種がいます。関西弁で話す人と、九州弁で話す人は、それぞれ違う方言を持っているけど、お互い通じるので同じ日本語という種ということになります。一方英語は日本語とまったく通じるものがないので別種ということになります。
それぞれが亜種と思われていたものが、実は別種であったということも起こります。例えば、アメリカ合衆国西部に生息するカリフォルニアイチモンジは、Adelpha bredowiという種類で、カリフォルニア州はcalifornica、アリゾナ州はeulaliaという亜種とされてきました。ところが、メキシコにbredowiとcalifornicaとeulaliaが同じ場所で発見されたため、今ではこれらを別々の種として扱うようになりました。
人間が決めた定義ですので、どう扱うべきか分からないこともしばしば起きます。例えば、連続した列島などに生息している蝶の場合です。三つの島があったとして、それぞれに亜種A、B、Cが生息しているとします。AとB、そしてBとCも交配が可能なのですが、離れた場所のAとCは交配できない場合、AとB、そしてBとCは同じ種類であるのに、AとCは違う種類という矛盾した結論が出てしまいます。
この様に分類は常にいろいろな考え方や発見によって、今後も変化していくのです。
蝶と蛾の違い
蝶と蛾の違いについては、蝶と蛾の違いのページを参照して下さい。
更に詳しい蝶の分類を次のページで見てみましょう。
Prudic, K. L., Warren, A. D., & Llorente-Bousquets, J. (2008). Molecular and morphological evidence reveals three species within the California sister butterfly, Adelpha bredowii (Lepidoptera: Nymphalidae: Limenitidinae). Zootaxa, 1819, 1-24.
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