蝶は、その目立つ存在から、海外ではエコロジカル・インディケーター(Ecological Indicator)として注目されつつあります。すなわち、蝶の種類をたくさん見ることが出来ればその地域は、自然が豊富で農薬などの散布が少ないとすぐに予測できるわけです。逆に、自然いっぱいあふれる公園なのに蝶が全然飛んでいなければ、それは人工的に作られた公園であったり、農薬がたくさんまかれている場所であったりするわけです。また、毎年生存している蝶を確認して、環境の変化を調べる事もできます。
例えば、現在私は船橋市の蝶の生存状況を調べています。私が小~中学生の時に採集した蝶達が今どの様な状況にいるかを見ることができます。こういった調査をするにはある程度標本があると助かります。→ 船橋市の蝶
日本で保護されている蝶で知名度が高いのは、ギフチョウとオオムラサキがあります。ここでよく間違われるのは、これらの蝶が「天然記念物」であり、採集をしてはいけない蝶と思われる方がいることです。これらの蝶は、決して天然記念物に指定された種類ではありません。但し、場所によっては保護されているので気を付けましょう。
蝶を絶滅に追いやる要素
一般に考えられている、採集のしすぎによる蝶の絶滅はあり得ません(ただし、大量に食草ごと幼虫を持ち帰るのは、別問題)。蝶が発生できる環境さえ残っていれば、蝶をたくさん採ってもそう簡単に絶滅させることは出来ません。以下は、蝶が絶滅すると思われる要因です。
・環境の変化。生息地がダムで水の底に沈んだり、ゴルフ場などの建設のために植物を一掃したりする。
・極度の農薬や殺虫剤の散布。
・幼虫採集のために、大量の食草ごと持ち帰る。
・天敵を増やすような行動。
天然記念物の蝶について
日本では、以下の種類の蝶が天然記念物に指定されていて、採集禁止となっています。
・ウスバキチョウ Parnassius eversmanni daisetsuzanus
・ダイセツタカネヒカゲ Oeneis melissa daisetsuzana
・アサヒヒョウモン Clossiana freija asahidakeana
・カラフトルリシジミ Vacciniina optilete daisetsuzana
・オガサワラシジミ Celastrina ogasawarensis
・ゴイシツバメシジミ Shijimia moorei
・ヒメチャマダラセセリ Pyrgus malvae
これらの蝶は採集は禁止されていますが、その生息地にゴルフ場や別荘地などの建設することは、禁止されていません。また、農薬を散布することなども防止されておらず、ある意味では、種の保護には全然なっていません。
→「天然記念物」とは?
また、これらの蝶以外でも、将来が危惧される蝶については、レッドデータブック(RDB)という項目において管理されています。RDB種についての現在の状況は、生物多様性情報システムのホームページにて確認することが出来ます。
地方指定の採集禁止種類
地域によっては、保護されている蝶がいます。
・奈良県春日山のルーミスシジミ:但し現在は、農薬の空中散布により絶滅。
・鳥取県鳥取市東町、栗谷町、上町のキマダラルリツバメ。
・高知県高知市天満宮境内、要法寺境内、潮江中学校のミカドアゲハ。
このほかでも、町や村で採集禁止されている種類がいますので気を付けましょう。これらの蝶も、生息地を保護することは義務づけられていません。奈良県のルーミスシジミは、寂しい例の一つです。
ワシントン条約
絶滅の危機にある種類(蝶に限らず)の輸出入を禁止する条約です。蝶については、以下の種類が指定されています。
・アポロウスバ
・キシタアゲハ属
・アカエリトリバネアゲハ属
・トリバネアゲハ属
これらの蝶を日本に持ち込むには、輸出国の公的機関などによる輸出許可書などが必要になります。
→ ワシントン条約とは?
蝶を保護するには
蝶を保護するには、その環境を保護することが大切です。いくら天然記念物に指定して、採集などを禁止しても、その生息地が住宅地やゴルフ場になってしまえば、蝶は簡単に絶滅してしまいます。蝶(全てに生物が当てはまりますが)の保護を考えるときは、まず次の点を観察して勉強しておくことが大切です。
・蝶の食草や成虫の餌。その蝶がなにを食べて生きているのか。食草によっては、環境に合わせて発生地を変えていく種類がありますので、食草があればよいと言うことではありません。(例えば、ゴマシジミの食草のワレモコウは、野原に生えていますが、草木が茂り始めると無くなってしまいます。)
・その蝶についての生態。多くの蝶の幼虫はアリに育てられたりしています。食草があってもアリがいなくなれば絶滅してしまう蝶も。
・天敵との関係。天敵がいなくなれば、その蝶が増えすぎて食草が食べ尽くされて絶滅することも。
・成虫の行動パターン。縄張り欲が強い蝶を狭い場所に集めることは出来ません。
一番良い保護の方法は、蝶がふつうに生活できる自然を残してあげることです。そして、保護の方法を考えるときは、蝶のコレクターなどに相談するのが一番です。蝶の生態も良く知っていて、蝶がいなくなって一番悲しむのはこの様なコレクターたちです。
放蝶について
放蝶(ほうちょう)とは、飼育した蝶などを自然に放すことで、これについては賛否両論あります。日本では、オオムラサキなどの放蝶が見られますが、この様な放蝶が自然界にどのような影響をもたらすのでしょう。
<長所>
・美談として、メディアに取り上げられ、その蝶に関する事が世の中に広く知られ、蝶を保護しようと言う意識が広がる。
・蝶の数が増える。
<短所>
・その環境の生態系を無視した放蝶は、逆に生態系のバランスを壊すこととなり、絶滅させてしまうことも。
・他の土地からもってきた蝶を放蝶することは保護とはいえない。例えば、同じカラスアゲハだからといって九州のカラスアゲハを千葉にもってきて繁殖させれば、もともと居た千葉のカラスアゲハは絶滅に追いやられます。見た目はわかりにくいですが、蝶のことをあまり知らない人はやりかねません。
・病気や、致命的な遺伝(例えば、繁殖力がなかったり、あるウイルスに対する抵抗力がないなど)をもった蝶を放蝶する可能性があるので、危険。自然界ではこの様な個体は成虫になる前に死んでしまいますが、過保護な飼育下では成虫になってしまいます。そのような個体の間に出来た子孫は全部死滅してしまうことも。これは、逆に害虫駆除などに使われるテクニックで、繁殖能力のない蠅を大量に放ち、その蠅を絶滅させようという方法があります。