■ワシントン条約という条約をご存じですか?海外に旅行などに行くと税関などで「ワシントン条約指定種は持ち帰らないように気を付けましょう」というポスターなどをあちこちで見かけますが、そもそもワシントン条約って何なんでしょうか?
ワシントン条約はアメリカ合衆国政府と国際自然保護連合(IUCN = The World Conservation Union)が中心となって作成したもので、アメリカ合衆国のワシントン(よって日本語ではワシントン条約といわれている)で1975年7月1日より発効し、2020年6月時点)世界183カ国が締約しています。日本は1980年6月8日に57番目の締約国となり、ワシントン条約のルールに従っています。
ワシントン条約って?
ワシントン条約(正式名称はConvension on International Trade in Endengered
Species of Wild Fauna and Flora、略してCITES(サイテス)と呼ぶ。意味は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する協約」)は野生動植物の国際取引の規制を輸出国と輸入国が実施することにより、その採取・捕獲を抑制して、絶滅のおそれのある野生動植物の保護を計るものです。これらの生物は、生死に関わらず国際取引が規制されています。ですから、蝶の標本もこの対象に入ります。
ワシントン条約の仕組み
ワシントン条約では、特定の動植物が以下の3つのタイプに分けられています。
1)附属書 I(Appendix I):絶滅のおそれの高いもので、商業取引を禁止する。国際取引がある場合、輸出国の輸出許可、輸入国の輸入許可が必要となる。
2)附属書 II(Appendix II):商業取引は許可されている。国際取引がある場合、輸出国の輸出許可、輸入国の輸入許可が必要となる。
3)附属書 III(Appendix III):各締約国が、自国における捕獲又は採取を防止するために、他国の協力を求めるもの。
なぜワシントン条約が必要なのか?
ワシントン条約は蝶のために作られた条約ではありません。上記にあるように全ての絶滅のおそれのある動植物が対象になるわけですが、その中で特に重要な対象はほ乳類にあります。これは毛皮などといったものを狙った、乱獲があるからです。ケニアのクロサイは、その高価な角をとるために乱獲され、1970年代にその数の90%が殺され、400頭ほどしかいなくなってしまいました。この様な事例を今後避けるため、1972年、国連人間環境会議において特定の動植物の国際取引に関して条約を作成するよう呼びかけたのが始まりです。蝶の場合は、乱獲による個体数の減少はあまり心配がありませんが、むしろ森林伐採などによる環境破壊が深刻な問題となっています。
そもそも、「絶滅」は地球の歴史で自然に起こる現象のひとつでしたが、近年の動植物の絶滅の経緯は、環境破壊といった、あまりにも人間側に責任がある事例が多く、この条約を締約するに至ったというものです。
指定種を輸入する(附属書II指定種のみ)
ワシントン条約の指定種の中には、その国が保護を目的に飼育をしている場合があります。これはその蝶の生態や習性を知る上で大切なことで、飼育したときの情報を元にどの様に自然で発生している蝶を保護するべきかヒントを得ることが出来るからです。特にトリバネアゲハについては収集家の需要も高いため各地域で盛んに飼育がされています。幸いなことに多くのトリバネアゲハ類の飼育は成功しており、飼育された蝶は管理下の元収集家に売られたりしています。パプアニューギニアの政府についてはこれらの売上をまた蝶の保護に利用しており、一概にワシントン条約指定種を買うことが絶滅につながっているわけではありません。
このホームページで見られるワシントン条約指定種もこういった飼育された個体で、下の写真のような輸出国の許可書をもって国内に持ち込まれたものです。許可書には輸出した蝶の学名、原産地、そして飼育個体である旨などが記載されています。この許可書は輸入の際に税関に提出しますので、コピーをしていない限り手元にこの様な許可書は残りません。もし、これら標本を日本から再輸出する場合は、原産地証明が必要となりますので、手元にそのコピーを保管しておく事が必要です。この原産地証明がないと輸出する事が出来ません。
輸出国の許可書
国内で取引されているワシントン条約種についての扱い
国内の標本商や個人がインターネットを利用して、トリバネアゲハなどの指定種を売っているのを見かけると思います。ワシントン条約は輸出入の規制になりますので、これらを国内で売買することは違反とはなりません。ただし、付属書I指定種については、ワシントン条約ではなく、種の保存法に定められた規制がありますので、注意が必要です。
海外に引っ越す時はどうなるか
転勤などで、海外に引っ越すことになった場合、ワシントン条約の標本の扱いはどうなるのでしょうか?これは、引越し先の国によって法律が違うことが予想されますので、それぞれの国の法律を確認する必要があります。また、海外から日本へ戻ってくる場合は、引越しの荷物として持ち込むことが出来、その場合は特に許可書は必要とされません(経済産業省談:実際に引越しをされる場合は、状況が変化していることも予想されますので、念のため経済産業省と御確認ください。)
指定種
現在指定されている蝶の種類は、以下の通りです。
附属書 I 指定種
附属書 II 指定種
附属書 III 指定種
シボリアゲハ属(Bhutanitis) 1987年10月22日指定
lidderdalii 1987年10月22日指定
ludlowi 1987年10月22日指定
mansfieldi 1987年10月22日指定
thaidina 1987年10月22日指定
トリバネアゲハ属(Ornithoptera) 1979年2月16日指定
aesacus 1979年2月16日指定
akakeae 1979年2月16日指定
alexandrae 1977年2月4日指定 1987年10月22日附属書 I 指定種に指定。
allottei 1977年2月4日指定
caelestis 1979年2月16日指定
chimaera 1977年2月4日指定
croesus 1979年2月16日指定
goliath 1977年2月4日指定
meridionalis 1977年2月4日指定
paradisea 1977年2月4日指定
priamus 1979年2月16日指定
richmondia 1979年2月16日指定
rothschildi 1979年2月16日指定
tithonus 1979年2月16日指定
urvillianus 1979年2月16日指定
victoriae 1977年2月4日指定
ルソンカラスアゲハ Papilio chikae chikae 1987年10月22日指定
ミンドロカラスアゲハ Papilio chikae hermeli 2019年11月26日指定
本種は長い間別種とされてきましたが、ルソンカラスアゲハの亜種扱いとなり、ステータスが変わりました。
ホメルスアゲハ Papilio homerus1987年10月22日指定
ホスピトンアゲハ Papilio hospiton 1987年10月22日指定
アポロウスバアゲハ Parnassius apollo 1977年2月4日指定
アポロウスバアゲハ Parnassius apollo apollo 1975年7月1日指定。
後に上記P. apollo種に含まれる。
テングアゲハ属(Teinopalpus) 1987年10月22日指定
aureus 1987年10月22日指定
imperialis 1987年10月22日指定
アカエリトリバネアゲハ属(Trogonoptera) 1979年2月16日指定
brookiana 1979年2月16日指定
trojana 1979年2月16日指定
キシタアゲハ属(Troides) 1979年2月16日指定
aeacus 1979年2月16日指定
amphrysus 1979年2月16日指定
andromache 1979年2月16日指定
criton 1979年2月16日指定
cuneifer 1979年2月16日指定
darsius 1979年2月16日指定
dohertyi 1979年2月16日指定
haliphron 1979年2月16日指定
helena 1979年2月16日指定
hypolitus 1979年2月16日指定
magellanus 1979年2月16日指定
minos 1979年2月16日指定
miranda 1979年2月16日指定
oblongomaculatus 1979年2月16日指定
plateni 1979年2月16日指定
plato 1979年2月16日指定
prattorum 1979年2月16日指定
rhadamantus 1979年2月16日指定
riedeli 1979年2月16日指定
vandepolli 1979年2月16日指定
Atrophaneura jophon 2003年2月13日指定
Atrophaneura pandiyna 2003年2月13日指定
Parides burchellanus 2019年11月26日指定
アミドンミイロタテハ Agrias amydon boliviensis 2010年10月14日指定
アカルリオビタテハ Prepona praeneste buckleyana 2010年10月14日指定
ゴダートモルフォ Morpho godartii lachaumei 2010年10月14日指定