蝶と蛾を区別する事については色々なことが言われています。全てが正解であるわけではありません。それぞれの区別法には例外が多くあります。極論を言えば、蝶と蛾は同じ「鱗翅目」であり、区別できるわけではありません。それでも、日本の場合はほとんどがこの方法で区別できるのでご紹介しておきます。
なお、1986年ごろからシャクガモドキという、蛾のようなグループがDNAの解析の結果アゲハチョウの仲間やセセリチョウの仲間と並んで蝶の仲間とされました。これは今でも蛾と認めたくない人が多くいます。
蝶?蛾?南米のカストニア。
蝶は昼に飛び、蛾は夜に飛ぶ?
一般的に、蝶は昼間飛び、蛾は夜飛びます。ただし、一部の蝶は朝や夕方の薄暗い時間を好んで飛びます(ワモンチョウやフクロウチョウ、ジャノメチョウの一部など)。ジャノメチョウのやセセリチョウの仲間も夜、家の灯りに飛んでくることがあります。
一方、蛾の仲間には昼行性のものが多くいます。
▲昼間、花に来たキンモンガ(蛾)
蝶は触角の先がこん棒状だが、蛾はくし状、または先がとがっている?
蝶と蛾を区別するのに最も確実なのがこの方法。蝶の触角はセセリチョウの仲間を除いてはほぼ全種が先が膨らんだこん棒状になっています。
一方蛾は、先がとがっているものがほとんどで、中にはくし状であったりします。熱帯地区に多い、カストニアという蛾の仲間は、蝶と同じ触角の形をしている種類がいます。
ちなみに、くし状の触角を持つ蛾はオスで、同じ種類のメスはとがった触角をしています。これは、この蛾がメスのフェロモンを探しながら夜飛ぶので、特殊化された触角なのです。
▲蝶の触角(タテハチョウ・マダラチョウ・シロチョウ・セセリチョウ・セセリチョウ)
▲蛾の触角。蛾に見られる、くし状の触角ととがった触角。
蝶は羽をたたんでとまるが、蛾は広げてとまる?
写真の蛾のように、ベタッと羽を広げてとまっているのはいかにも「蛾」らしいとまり方です。では、蝶は羽を広げてとまらないかというと、タテハチョウの仲間の多くは羽を広げてとまります。他の蝶の仲間でも、太陽に当たって体温を上げようとするときは羽を広げてとまります。
羽の広げ方も色々ありますので、慣れてくるとどの羽の広げ方で蝶か蛾かが分かるようになります。
▲羽を広げてとまるイボタガ |
▲羽を広げてとまるキベリタテハ |
蝶はきれいだが、蛾はじみ?
多くの蛾は茶色をベースとした保護色をしていることが多く、地味と思われがちです。特に夜行性の蛾は派手な模様をする必要もないため、くすんだような色をしているものが多くいます。ただ、昼行性の蛾には蝶に負けないくらい美しいものが多くいます。例えば、下にあるツバメガの仲間がそれにあたります。また、地味な蝶も沢山います。よって、この方法による区別はあまり使えません。
▲マダガスカル島に生息するニシキオオツバメガは蝶と蛾の仲間で最美といわれる
蛾は胴体が太い?
写真のように胴体がやたら太いのがいたらまず間違いなく蛾でしょう。ただし、同じような形で間違われやすい種類にはセセリチョウの仲間がいます(セセリチョウを蝶とは別に扱う国などもあります)。また、多くの蛾は蝶のようにスリムな体を持つものもいますので、決定的区別法とは言えません。
蛾は胴が太い?
▲とても太い体を持つ、カリフォルニアオオセセリ(アメリカ合衆国)
蛾は鱗粉が剥げやすい?
確かに、鱗粉が簡単に剥げる種類は蛾に多い様です。ただし、この方法では蝶と蛾は区別できません。
前翅と後翅をつなげる方法
蝶も蛾も、飛ぶときは、前翅と後翅をまるで一つの羽のように動かします。トンボやカブトムシが空を飛ぶとき、前翅と後翅を別々に動かすのとは対照的です。前翅と後翅を一緒に動かすのに、蝶の場合、後翅基部の前縁が大きく前方にせり出ています。一方多くの蛾は「翅棘(しきょく)」といった棘が後翅より出ていて、前翅にあるフックのような突起(抱鉤(だきかぎ))に引っかかっていて、蝶と蛾を区別する良い方法といえます。ただし、この仕組みを持たない蛾もいますし、確認するには蝶や蛾を捕まえてよく観察しなければ見えません。
因みに蝶でこの翅棘を持つ例外として良く知られている種類にオーストラリアに生息するラッフルズセセリがいます。
▲蝶は後翅が前に張り出す。
▲蛾は、棘が出ており、前翅とつながる。
日本に生息する、蝶と蛾であれば殆どがこの様な点で見分けることが出来ますが、これが完璧というわけではないので気を付けて下さい。日本ではともかく、世界の蝶や蛾を調べるときはあてになりません。
結局、蝶と蛾は同じ「鱗翅目」の仲間なのです。よって、分類学上で蝶と蛾を区別するには、「科」で分けることになります。すなわち、分類のページで紹介している科(セセリチョウ科、シャクガモドキ科、アゲハチョウ科、シロチョウ科、シジミチョウ科、シジミタテハ科、タテハチョウ科)に属するものを「蝶」と呼び、そのほかを「蛾」と呼んでいるのです。
本当は、蝶と蛾は区別できないほど似ている仲間なのです。外国では、日本語や英語のように蝶と蛾を別々に呼ばず、一つの言葉で言い表している国が多くあります(フランス・ドイツ・インドネシア・ネパールなど)。また、英語圏の国では、時々セセリチョウ科の蝶をスキッパーズ(Skippers)として、蝶と蛾から区別することもあります。
▲蝶とよく間違えられる、イカリモンガという蛾。(上島氏撮影)