呼吸のページ
■蝶の顔を見ていても、私たちのように鼻の穴が見当たりません。蝶はいったいどうやって息を吸っているのでしょうか?
空気の通り道:気管(きかん)
私たちが呼吸をする時、鼻や口を通して空気を吸い込んだり、はき出したりします。吸い込まれた空気は肺に入り、そこで血液に含まれる、ヘモグロビンに酸素が渡されます。酸素を含んだヘモグロビンは、血管を通って、体中の細胞たちに酸素を届けてくれ、酸素を受け取った細胞は、かわりに不要となった二酸化炭素をヘモグロビンに渡します。肺に戻ってきたヘモグロビンは二酸化炭素を放出し、また酸素を受け取り、また体中を駆け巡ります。
さて、体液と心臓のページで、昆虫は私たちのようにヘモグロビンを体液に持たないと書きました。では、いったい蝶たちの体はどのようにして呼吸をしているのでしょう?
昆虫たちは、体が小さいことを利用したユニークな呼吸方法を身につけました。私たちの血管のように、体中に気管(きかん)という、空気が通る管を体中に張り巡らしたのです。蝶の体の細胞たちは、栄養などを体液からもらい、酸素は気管から取り込むようになりました。この仕組み(気管系(きかんけい)といいます)は同時に昆虫たちに体を軽くさせ、空を飛びやすくするという効果も与えました。
空気の入り口:気門
蝶の胸部と腹部の側面を良く見てみると、(特に幼虫は)小さな楕円形の紋を見つけることができ、各節の側面に左右一対ずつあることが分かります。この丸い穴が、昆虫たちが空気を体の中に取り込む気門(きもん)です。気門は筋肉がついていて、あけたり閉じたりすることができ、空気を出し入れする時に開き、それ以外の時は水分が体から出て行かないように閉じています。また、気門は細かい毛が密生しており、私たちの鼻毛のように、ごみなどが入らないようになっています。
▲アゲハチョウの幼虫の気門の位置
気門は直接気管につながっていて、そこから体中に張り巡らされています。また、気門はちょっと太めの気管でとなり同士の気門とつながっているため、一つの気門が詰まっても蝶が窒息することはありません。
▲気門の写真を拡大したところ
気門の数と位置は、成長とともに少し変わります。
卵 → 卵の呼吸する仕組みは少し違います。
卵の呼吸を参照ください。
幼虫 → 胸部(前胸に一対)と腹部(第1から第8節まで、各節に一対)
成虫 → 胸部(前胸と中胸の間に一対、中胸と後胸の間に一対)と腹部(第1から第7節まで、各節に一対)
成虫では体が鱗粉に覆われていて気門は大変見えにくくなっています。一部の蝶は腹部の気門の周りの鱗粉の色が変わっていて、その場所がわかりやすいものもいます。
▲ナガサキアゲハの腹部。気門の周りに白い鱗粉があります。
空気の動き
さて、空気がどこから体に取り込まれるかは分かりましたが、蝶はどのように空気を体中に送っているのでしょう?気門を開いただけでは、空気は蝶の体を出入りしません。
成虫の場合、気管が膨らんで袋状になったものが頭部、胸部に一対ずつ、腹部は付け根に二対あります。蝶が腹部を伸ばすと、この袋が膨らんで、気門から空気が気管に流れ込んできます。その後、波打つように後方から腹部を縮めます。この時、気門が後から順番に閉じて、空気は前のほうへと押し出されます。腹部にある体液も同様に胸部に流れ込みます(体液の流れについては体液と心臓のページを参照)。体液が流れることにより、気管の中の空気も体液に押されて一緒に動くと考えられていて、翅や触角についても体液に押されて空気が流れこみます。また、翅を羽ばたいたり、体を動かすことによっても空気が気管内を動きます。
成虫の気管系概念図
青いのが気管。茶色は体節間膜(たいせつかんまく)。
腹部や胸部の横にある小さな丸の部分が気門。
(Scott 1986より改図)
幼虫の場合はいたって単純で、成虫のような袋もなく、気門から体中に気管が伸びているだけです。体を動かすことによって、空気が動きます。
昆虫の場合、私たち人間のように体を温めたりする事がないため、大量の酸素を必要としません。よって、私たちのように呼吸のペースはあまり早くなく、腹部の伸び縮みはそれほど目立つものではありません。
卵の呼吸
卵の構造のページ参照。
Scott, James A.. 1986. The Butterflies of North America, a natural history and field guide. Stanford; Stanford University Press.