▲ランタナの花で吸蜜する、キスジドクチョウ Heliconis charitonia
ベイツ型擬態が発表された後、ドイツ人のフリッツ・ミューラー氏(Fritz J.F.T. Muller
1822-1897)が1887年に、互いによく似た数種類のドクチョウを見て、ある事を考えました。ドクチョウは幼虫の時に食べた食草から毒を体内に蓄え、それを食べた鳥などは、気持ちが悪くなり、吐いてしまいます。一度ドクチョウを食べたことがある鳥は二度とドクチョウを食べようとしません。
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フリッツ・ミュラー(Fritz Muller)
De Vries 1997 より
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ドクチョウは、自分の体内に毒があることを警告するように、派手な色彩の羽を持ち、また、ゆっくりと飛ぶ習性があります。これは、ドクチョウを食べた事がある鳥などに対しては効果的ですが、逆に食べた経験のない鳥には簡単に捕まる餌として狙われやすくなります。擬態の効果を上げるためには、鳥一羽に対して一頭の蝶が犠牲にならなければなりません。
南米で著しく発展しているドクチョウの仲間は、違う種類であるのにも関わらず、互いによく似た羽の模様をもっています。これは、1種類の蝶が鳥一羽に対して一頭の蝶が犠牲を出さなければならないのに対して、5種類の蝶が同じ様な模様を共有することによって、どれか1種類の蝶が一頭犠牲になることで他の蝶の種類が助かる、非常に効率の良いシステムとなっているのです。
▲左から、ブルネイドクチョウ H. burneyi、エレバトゥスドクチョウ H. elevatus、エラートドクチョウ H. erato、カントクレスドクチョウ H. xanthocles
この関係を発見したミューラーにちなんで、この擬態は「ミューラー型擬態(Mullerian Mimicry)」と呼ばれています。しかし、これらの蝶達は、お互い毒をもって自分を守っているので、本当は「擬態」の定義からすれば、ミューラー型擬態は「擬態」ではありません。