蝶の翅の各部名称は、蝶の特徴を表すときや、分類するときに非常に便利なものとなります。特に翅脈(しみゃく)は蝶を分類する上でも重要ですし、その有様(脈相(みゃくそう))は種類によっても特徴があるため、鱗粉が剥げてしまって翅の模様が分からなくなっても、ある程度種類を特定することが出来ます。特に翅の模様が残らない化石などについては、これが分類の手がかりとなります。
まずは翅脈の様子を見てみましょう。脈の呼び方は以下の通りとなります。同じ翅脈のようで、径脈(けいみゃく)や中脈(ちゅうみゃく)と呼び名が変わるのは、それぞれの翅脈が一つの翅脈から分岐しているからです。
例えば下の図で言うと、径脈(R)は5つの脈に分かれ、第一、第二、第三、第四、第五径脈という風に1つの脈が5つに枝分かれていきます。
因みにこの脈の呼び方はティリヤード式と呼ばれ、この他にもハンプソン式という方法もあります。→ティリヤード式とハンプソン式の比較
前翅(ぜんし)
記号
|
名 称
|
英 名
|
説 明
|
ー
|
中室(ちゅうしつ) |
Cell |
中央にある、翅脈に囲まれた部屋のこと。種類によっては翅脈が中室を閉じない。 |
C
|
前縁脈(ぜんえんみゃく) |
Coastal Vein |
一番前の翅脈で基本的には見えない。 |
Sc
|
亜前縁脈(あぜんえんみゃく) |
Sub Coastal Vein |
前縁脈と径脈の間に伸びている翅脈。 |
R
|
径脈(けいみゃく) |
Radial Veins |
基本的には中室上部から出ている翅脈。 |
M
|
中脈(ちゅうみゃく) |
Median Veins |
中室から出ているような翅脈。 |
Cu
|
肘脈(ひじみゃく) |
Anterior Cubitus Veins |
中室下部より分岐している翅脈。 |
A
|
臀脈(でんみゃく) |
Anal Veins |
前翅基部より伸びている。 |
CuP
|
中脈分岐(ちゅうみゃくぶんき) |
Posterior Cubitus Veins |
アゲハチョウ科の蝶に見られる翅脈。 |
ここで注意しなければならないのは、全ての蝶がこの様な脈相を持っているとは限らないことです。例えば中脈分岐(CuP)はアゲハチョウの仲間に見られる特徴で、他の蝶の仲間では見られません。また、肘脈だって種類によって2本だったり3本だったりします。これらの特徴があるからこそ、化石の蝶や、鱗粉の剥げたぼろぼろの蝶をみて、どの仲間と特定できるわけです。
後翅(こうし)
後翅の脈の構造も基本的には前翅と同じです。ただし、後翅のほうが種類によって色々と形のバリエーションに富み、尾状突起も複数出てきたりします。
ティリヤード式とハンプソン式の比較
ここ以外の脈の呼び方で、ハンプソン式というものがあります。これは、脈を後ろから数字で表したもので、ティリヤード方式と違って、どこの脈から分岐したのか分かりにくい欠点があります。
|
ティリヤード式
|
ハンプソン式
|
前
翅
|
前縁脈(C)
|
-
|
亜前縁脈(Sc)
|
12
|
第一径脈(R1)
|
11
|
第二径脈(R2)
|
10
|
第三径脈(R3)
|
9
|
第四径脈(R4)
|
8
|
第五径脈(R5)
|
7
|
第一中脈(M1)
|
6
|
第二中脈(M2)
|
5
|
第三中脈(M3)
|
4
|
第一肘脈(Cu1a)
|
3
|
第二肘脈(Cu1b)
|
2
|
第三肘脈(Cu2)
|
1c
|
第一臀脈(1A、2A)
|
1b
|
第二臀脈(3A)
|
1a
|
後
翅
|
亜前縁・径脈(Sc+R)
|
8
|
径分脈(Rs)
|
7
|
第一中脈(M1)
|
6
|
第二中脈(M2)
|
5
|
第三中脈(M3)
|
4
|
第一肘脈(Cu1a)
|
3
|
第二肘脈(Cu1b)
|
2
|
第三肘脈(Cu2)
|
1c
|
第一臀脈(1A、2A)
|
1b
|
第二臀脈(3A)
|
1a
|