鱗粉(りんぷん)は蝶の特徴として最も重要なものです。「鱗翅類(りんしるい)」と呼ぶのも、翅に鱗のようなものがあるという意味で、学術的名称である、Lepidoptera(レピドプテラと読む)も「Lepido=鱗のような」+「ptera (pteron)=つばさ」で意味は同じです。鱗粉のはっきりした起源は分かりませんが、おそらく体毛から進化したものと考えられています。
肉眼では見えにくいのですが、蝶の翅を拡大してみると、下の写真のような瓦(かわら)のようなものが見えます。この一つひとつが鱗粉なのです。こうしてみると、蝶の翅の模様は一つひとつの鱗粉が集まってできたものと分かります。また、一つの鱗粉の色は一色であることが分かります。つまり、蝶の翅の模様はコンピューターグラフィックのようなものなのです。
左:オオオビクジャクアゲハの翅の拡大写真 右:メネラウスモルフォの翅の拡大写真
ビクトリアトリバネアゲハの翅の拡大写真
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鱗粉を更に拡大してみましょう。鱗粉は種類によって色々な形をしていて、四角かったり、花びらの様な形をしたりしています。電子顕微鏡でのぞく鱗粉は下の写真のように見えます。(教材としての走査型電子顕微鏡画像集より)
▲オオムラサキの鱗粉の拡大写真
さて、鱗粉は翅にどのようにくっついているのでしょうか?蝶の翅を少しこすって、鱗粉を落とした後、虫眼鏡などで拡大してみると下の写真のようなものが見えます。透明の翅の膜のところにぽつぽつと白い点があるのが分かりますか?これは、ソケットと呼ばれ、鱗粉が差し込まれているポケットのようなものです。こうやって見てみると、鱗粉はでたらめについているのではなく、まさしく瓦のように順序よく並んでいることが分かります。
▲ヒメアカタテハのソケットの様子。翅の表(オレンジの鱗粉があるほう)と
裏(白っぽい鱗粉があるほう)両方が見えています。
鱗粉は翅だけではなく、蝶の体にも見られます。
▲クロアゲハの腹部を拡大したところ。
鱗粉の種類
同じように見える鱗粉にも、実はいくつかの種類があります。
毛
主に腹部に当たる後翅の内側周辺に見られます。腹部を優しく包み込んでいます。
普通の鱗粉
翅を彩る鱗粉にはいくつかの色素が報告されています。
発香鱗(はっこうりん)
多くの種類はオスが発香鱗を持ち、交尾の際に利用します。香鱗はそれぞれ袋みたいな構造を持っており、そこに香りのもとが入っています。なお、香鱗は翅全体に散らばっていて肉眼では区別できない場合と、一カ所に集まり性標紋(せいひょうもん)をつくる場合があります。
上の電子顕微鏡写真はモンシロチョウの鱗粉です。モンシロチョウはオスもメスも同じ模様をしているように見えますが、この様に鱗粉を拡大してみると、オスの鱗粉(写真左)は発香鱗であり、メスの鱗粉(写真右)は普通の鱗粉であることが分かります。
鱗粉の役割
翅を覆っている鱗粉にはいくつかの機能があります。
翅を彩る
繰り返しになりますが、翅の模様を作るのは、鱗粉です。
▲ヒメアカタテハの翅
水をはじく
鱗粉の構造とその並び方は水をはじく特性があります。つまり、雨にあたっても、それをはじき返す力を持っています。おかげで、蝶の翅は雨が降った後も濡れずに、すぐに飛び立つことが出来ます。また、汚れもつきにくくなっています。逆に鱗粉がはげ落ちた個体は、翅が濡れてしまい、しばらく飛ぶこともできなくなります。
▲水をはじくミイロタイマイの翅
香りを持つ
発香鱗を持ち、オスがメスに自分がオスであることを認識させ、また、メスに交尾を促します。
温度調整
蝶は体を温めるときに、羽を広げて太陽の熱を吸収しようとします。つまり日向ぼっこをして体を温めます。この時、暗い色の鱗粉をもっていると、太陽の熱を吸収しやすく温かくなるのが早くなります。逆に暑い場所では明るい色の方が体温が上がりすぎずにすみます。
鱗粉の色