東洋区との境目、ウォレス線とウェーバー線
1854年から1862年にかけて東南アジアで生物の研究をしていた、イギリスの探検家、アルフレッド・ウォレス(Alfred Russel Wallace 1823-1913)は、ある海峡を境に生物の特徴が変わることに気がつきました。バリ島とロンボック島、ボルネオ島とスラウェシ島、ミンダナオ島とモルッカ諸島にその場所を見つけ、その線を境に西側は東洋区の生物、東側はオーストラリア区の生物が見つかることを発見しました。この線をウォレス線と呼びます。
一方、オランダ人の母とドイツ人の父を持つ動物学者マックス・ウェーバー(Max Wilhelm Carl Weber 1852-1937) は貝類や哺乳類の分布の違いを基準に1902年にウェーバー線を提唱しました。
この二つの境界線はどちらとも間違いがあるということではありません。ウォレス線の西側は東洋区、ウェーバー線の東側はオーストラリア区ということは間違いないようです。この二つの線の間は東洋区とオーストラリア区両方の生物が見られ、この混ざり合った地域をウォレシアと呼びます。何故このようになっているのかは、大陸移動に関係してきます。これについてはまた後ほど解説したいと思います。
▲赤い線がウォレス線でオレンジがウェーバー線
この2つの線の間にあるのがウォレシア
ウォレシアに位置するスラウェシ島
ウォレシアに位置する「k」の形をしたスラウェシ島(セレベス島)は、世界で11番目に大きな島の一つです。スラウェシ島(周りの小さな島も含む)には、およそ557種類の蝶が生息していますが、これは隣(西側)にあるボルネオ島に倍以上の種類数がいることを考えると、少ない方です。一方、この島でしか見られない固有種(この地域でしか見られない種類)は、全体の42.9%と、周りの地域と比べても大変多い方です。また、マダラチョウ類が38種も見られ、世界でも有数なマダラチョウのホットスポットとなっています。
この島に生息する蝶たちは、周りに生息する同じ仲間の蝶と比べて大きく、黒くなる傾向があります。前翅も湾曲することが多く、「スラウェシ前翅(Sulawesi forewing)」と呼ばれたりします。何故このような現象が起こるのかはよく分かっていません。一部の例を紹介しましょう。
アオスジアゲハ(日本)とミロンタイマイ(スラウェシ島)
オビモンアゲハ(マレーシア)とオオオビモンアゲハ(スラウェシ島)
アオネアゲハ(ジャワ島)とアオネアゲハ(スラウェシ島)
ルリオビアゲハ(フィリピン)とオオルリオビアゲハ(スラウェシ島)
ベニシロチョウ(マレーシア)とオオベニシロチョウ(スラウェシ島)
他にも色々な例があります。