■最近ミトコンドリアDNA解析による研究が盛んに行われています。ここでは、ミトコンドリアDNAについて簡単に紹介します。詳しいことを知りたい方は、色々な本が出ていますので、それを参考にしてみましょう。このホームページでは基礎だけ触れます。
細胞の中の生命体
ミトコンドリア(Mitchondria)という名前を聞いたことのある方は多いと思います。でも、ミトコンドリアとはいったい何者なのでしょうか?ミトコンドリアを理解するためには、少し細胞(さいぼう)の中について勉強する必要があります。
ミトコンドリアはよくカプセル状の絵で表現されますが、実際は神経のように細胞内にクモの巣のごとく広がっており、なおかつ目に見えるスピードで互いにくっついたり離れたり常に形を変化しています。この特徴は名前にも反映されていて、「ミトコンドリア」とは「ミト(mito=糸)」と「コンドリオン(chondrion=粒子)」という言葉から出来ています。
ミトコンドリアは私たちが空気を呼吸して取り入れた「酸素(さんそ)」と食事をして取り入れた「ぶどう糖(ぶどうとう)」を、「二酸化炭素(にさんかたんそ)」と「水」と「エネルギー」に変える働きを持っています。エネルギーは体温を保ったり、運動したり、物事を考えたり、その他の化学合成をする時などに使われます。つまり、ミトコンドリアがないと、私たちは生きていけない非常に大切な細胞内の器官(きかん)なのです。ミトコンドリアは「生命エネルギーの製造工場」とも呼ばれています。
ミトコンドリアの働き
酸素 + ぶどう糖 → ミトコンドリア → 二酸化炭素 + 水 + エネルギー
そしてミトコンドリアは細胞核にあるDNAとは違う、独自のDNAを持っています。ミトコンドリアがDNAを持っていることは、1963年スウェーデンのストックホルム大学の生物学者、マーギット・ナス氏が発見しました。ミトコンドリアのDNAは本来のDNAと混乱しないよう、「mtDNA」と書きます。ミトコンドリアには核のようなものはなく、数千ものmtDNAがミトコンドリア内に存在することが分かっています。
こんなに私たちにとって大切な役割を持ったミトコンドリアですが、実はもともとは細胞内には無かったものだといわれています。現在最も支持されている説は、地球上に初めて現れた生物、原核生物(げんかくせいぶつ)から真核生物(しんかくせいぶつ)、つまり細胞核をもつ生物に進化する過程で、ミトコンドリアの祖先を体内に取り込んだと言うものです。
なぜミトコンドリアDNAなのか?
生物がどのように進化したのかを調べるのに、mtDNAが今盛んに取り上げられています。なぜ、核にあるDNAではなく、mtDNAなのでしょうか?その理由にはmtDNAの特徴が、研究に適していることが挙げられます。
1.細胞は増える時に、自らの遺伝子をコピーします。このコピーですが、時々間違ってコピーされることがあります。この間違いを塩基置換(えんきちかん)といいます。また、コピー時だけでなく、何らかの刺激などで、DNAの配列が変わってしまう塩基置換もあります。塩基置換は致命的なときもありますが、なにも影響がなかったり、少し影響したりする場合があります。塩基置換は生物が環境に適応するのに、とても大切なことです。もし遺伝子が完璧にコピーばかりされていたら、環境が変化した時、その生物はそれに適応できずに絶滅してしまいます。
mtDNAの塩基置換は通常のDNAと比べると5~10倍早いとされています。人とチンパンジーのDNAを見てみましょう。チンパンジーは人と同じ祖先から進化したといわれています。DNAを比べてみると1%しか違わないということが分かります。一方、ミトコンドリアDNAを比較するとその違いは9%とDNAと比べると多いことが分かります。チンパンジーも人も同じ祖先から進化したことを考えると(決して、チンパンジーが人間に進化したのではないのですよ)、mtDNAの方が同じ期間に塩基置換がより多く行われていることがわかります。つまり、最近Aという種がBとCという種に分かれた場合、DNAをみてもあまり違いがないのに対し、mtDNAはDNAの5~10倍違いがあるため、比較しやすいということになります
2.mtDNAは母親のものだけが子供に伝わることが分かっています。父親のmtDNAは卵と精子が受精した後、排除されることが確認されます。みなさんの体の中のmtDNAはすべてお母さんと同じmtDNAなのです。なぜお父さんのmtDNAが伝わらないのかは、色々と説がありますが、いまだによく理解されていません。
さて、この特性は生物の進化を調べるのにある利点があります。それは、ある特定の祖先にたどり着くと言うことです。例えば、みなさんのDNAはどの祖先のDNAですか?と聞かれた場合、まずお父さんとお母さんがいて、またそれぞれにお父さんとお母さんがいます。そして、それぞれにまたお父さんとお母さんがいて・・・と途中であまりにも多い人が出てきてわけが分からなくなってしまいます。ところが、mtDNAの場合は母親のみをたどればいいのですから、最終的には一人の女性にたどり着く事となります。この特徴は、種がどのように進化してきたかを調べるのに非常にわかりやすくて助かります。
3.前にも説明しましたが、一つの細胞の中にはmtDNAは数千コピーが存在します。一方DNAは一つです。これは分析を行うのに非常に便利です。DNAの場合は、細胞一つ一つからそれぞれ一つのDNAを抽出するのに大変な手間がかかるからです。