▲スゴモリシロチョウ
メキシコのソノラ州からハリスコ州の1800m以上の山地に生息するスゴモリシロチョウEucheira socialisは、ツツジ科のイチゴノキ属(Arbutus)を食樹とする、シロチョウの仲間です。その少し変わった一生をご紹介しましょう。
スゴモリシロチョウの変わった一生
6月に発生するこの蝶は、生涯を群生して過ごします。初夏のころ、羽化したメスは食樹の葉に卵の塊を産み付けます。孵化した幼虫たちは、近くの幼虫の集団と合流して、200匹以上の集団をつくり、3日以内にまず葉の表面に糸を吐いて簡単な巣を作り始めます。その後幼虫たちは最初の巣を覆うようにさらに大きな袋状の巣を作り始めます。最初のころの巣は薄くて中が透けて見える状態ですが、蛹になるころにはとても厚く真っ白になり、水をためておくことができるほど丈夫になります。
幼虫達は、外が暗くなってから巣を出て食事を開始します。本種の行動を観察したJim Brock氏の話によりますと、まず数匹の幼虫が出てきて、しばらくしてから残りの幼虫が出てくるので、まるで最初に出てきた幼虫たちがまわりの安全を確認しているようだと言っています。
出てきた幼虫たちは、自分たちが残した糸とフェロモンの道しるべを頼りに、一列になって巣から離れた場所に食事に出かけます。ここでも幼虫たちは群れをなし、外が明るくなり始めるまで一晩中食べ続けます。空が明るくなり始めると、幼虫たちはまた一列になって巣の中に戻っていきます。この行動は冬の間にも続けられ、外気温が-2℃であっても幼虫たちは動くことができます。これは北極圏に生息する昆虫たちに匹敵する能力です。 ただし、気温がかなり低くなった場合は動けなくなり、その場合は日が昇り温かくなるのを待ち、体が温めてから巣に戻ります。
道しるべに使われるフェロモンは、幼虫の腹部から分泌され、新しい食事場に行く時ほどその量が多くなります。幼虫が食事に出かけるときは、常にその様なフェロモンが強い道を選びます。
幼虫が小さい時は、糸で出来た道しるべもわずかな量ですが、終齢幼虫のころにもなると、何度も幼虫が糸を吐きながら通ったその道しるべは1mm以上の厚さにもなり、巣から四方八方伸びている様子が見られるといいます。
▲集団で行動する初齢幼虫。Jim Brock氏撮影。
スゴモリシロチョウの巣
▲食樹の枝についている、スゴモリシロチョウの巣。Jim Brock氏撮影。
袋状になった巣には下の一か所だけに出入り口があり、そこから幼虫たちが出入りします。日中日光に当たった巣の中は気温が上がり、その温かさを保つことができます。中にいる幼虫は、寒い時は暖かい空気がたまる巣の上部の方へ、そして暑い時は下の方へ移動します。巣の上部と下部の温度差は12℃にもなる事が研究で分かっています。
スゴモリシロチョウの巣は、アズテック族などの先住民によって、切り開いて縫い合わせたものが装飾品の素材として使われていました。
オスが多い
巣を開けて幼虫の性別を見てみると、オスの割合が64~79%と非常に高くなっていることが分かっています。普通の蝶はオスとメスの比率は半分半分です。そして、オスの幼虫はメスの幼虫より、巣を作っている時間が長く、反対に食事をする時間は短いことが分かっています。つまり、幼虫の時に役割分担が見られるのです。オスの幼虫が多く見られる巣ほど、巣の大きさも大きくなる傾向にあります。そして、食事に出かける時も、まず最初に出てくるのがオスの幼虫で、メスの幼虫はオスの後に巣からから出てきます。
最後まで集団行動
大きくなった幼虫たちは、巣の中で一斉に蛹になり、そして巣の中で羽化します。成虫は夜灯りに集まることもあるようです。この蝶に詳しいTerrence Fitzgerald氏の話では、一部の成虫は翅が伸びる前に巣から抜け出して、巣の外で翅を伸ばし、日中に交尾と産卵行動が見られるそうです。そしてメスは、また葉にたくさんの卵を産み付けます。