まずは、前回のプラムキャニオンから採集記が止まっていた事をお詫びしなければなりません。2003年についてはあちらこちらと採集に行くことが出来ましたが、結果としてはまぁまぁというところでしたでしょうか。もう少し暴れたいところでしたが、やはり仕事があるとなかなかそうはいきません。ここでは、2003年の採集記録と、面白い発見などを書き残しておこうと思います。
プラム・キャニオン(アンザ・ボレゴ砂漠)
前回の採集記以降、実は何度か足を運んでいます。自分が出向いた採集地の中ではもっとも過酷な環境のように見えるのですが、人の手が入らない分自然が残っているのでしょうか、個体数としてはもっとも多く見かけたと思います。
ここで面白かったことは、行く度に蝶の種類が変化していったことです。面白かったのは、サラツマキチョウ(Anthocharis sara)とサバクツマキチョウ(Anthocharis cethura)の発生パターンです。前回の採集記(プラム・キャニオン)ではサラツマキチョウが沢山いる中で小さなサバクツマキチョウを一頭見つけただけでしたが、2月中旬に行ってみると状況は一変して、サバクツマキチョウだらけになっていて、サラツマキチョウが少ないという状況でした。しかも前回のサバクツマキチョウとは全然サイズが変わっていたのです。
▲左が前回1月末採集した個体。右は2月中旬に採集した個体。
このサイズの差が何を意味するのかは分かりませんが、非常に好奇心を駆り立てられます。2002年は旱魃(かんばつ)の年といわれていましたから、もしかすると過酷な条件で育った小さな個体が羽化して、それが卵を産んだものがすごい速さで育ち、2月中旬に大発生したのかもしれませんし、単なる偶然なのかもしれません。ひょっとすると、この小さな個体は実は別の種(!)なんていうこともあるかもしれません。サラツマキチョウは春の第一化の産んだ卵が、2〜3週間ほどで成虫になることが知られていますので同じ発生パターンなのかもしれません。
その後3月中旬にも行ってみましたが、その時はサバクツマキチョウは非常に少なくなっていて、サバクツマキチョウは短期集中型の発生をするということが分かりました。2月中旬の発生を見ることが出来たのは、実は大変ラッキーだったのかもしれません。
ハルカゼシジミ(Philotes sonorensis)はその後決して多くはありませんが、ちょくちょくと見かけることが出来ました。3月中旬に行った時はアリゾナからわざわざハルカゼシジミの発生について調べているという学生に出会い、1日に50頭ものハルカゼシジミに出会ったという話を聞きました。ただし、彼の場合は採集ではなく、観察なので同じ個体を何度も数えた可能性も否定できません。最も遅い時間に活動していた個体は夕方の5時ごろまで飛翔していたとのことで、日没時間が5時半ごろであることを考えると、意外と1日中飛んでいる蝶ということが分かりました。
ツマキチョウの他にはタテハチョウを数種採集できました。
ラグナ山地
南カリフォルニアに来たからには、ハルカゼシジミのほかに狙うべき蝶がいくつかいます。このなかでもやはり魅力的なのはカリフォルニア州の蝶である、カリフォルニアイヌモンキ(Zerene eurydice)でしょう。カリフォルニアイヌモンキは以前ロスアンゼルスの近くで採集したことがありますが、サンディエゴに分布していることは確認しており、また是非見てみたいと思っていましたが、運悪く、2003年は出会うことは出来ませんでした。
発生しているのは山地のようで、ラグナ山地のラグナ草原で見かけることが出来るとのことでしたので、幾度か足を運んでみましたが、モンキチョウ類はいるのにもかかわらず、カリフォルニアイヌモンキに出会うことは出来ませんでした。2004年については食草も調べ、今度は奥地まで足を運び、この蝶との再会を果たしたいと思います。
エルメスシジミ
出会えるまでしばらく時間がかかるであろうと思われた蝶に、エルメスシジミ(Hermelycaena hermes)がありました。この蝶はアメリカではまさにサンディエゴ市街近辺のみに生息しており、そのほかでは南のメキシコに数箇所コロニーが確認されているだけです。非常に局部的な分布のため、見つけるのもかなり苦労するであろうと思われました。
ところが、偶然アンザ・ボレゴ砂漠の帰りに蝶を採集していた人を見つけ、話しかけたところ、ある人物を紹介してもらえたのがきっかけで、あっけなく出会うことが出来ました。電話をしたところ、ちょうどエルメスシジミの発生調査に行くところだったので、連れて行ってもらったものでした。(簡単ですが、エルメスを採集したときの採集記です→サンディエゴ採集記(2003年5月))サンディエゴ近辺にしかいないとなると、非常に好奇心がそそるので、頑張ってその生態を2004年から観察してみようと思っていましたが・・・
なんと、10月に山火事が発生し、連れて行ってもらえた生息地域はすべて焼け野原に変わってしまいました。案内してもらった人の話では、エルメスシジミの種の生息地の90%が焼かれたとして、絶滅の危機に追いやられているとのこと。大変貴重な経験だったんだなと思う同時に、この種の現在の発生状況や保護の必要性などを今後調べてみたくなりました。
パイン・バレー
夏、7歳の息子の友達を採集に連れて行ってくれと相手方の親に頼まれ、はたと困ってしまいました。プラム・キャニオンはどれほど夏に蝶がいるか分かりませんでしたし、かといってラグナ山地もあまり蝶は採れていませんでした。地図とにらめっこした後、この谷であればいるかもということで、「採れなくても怒らないこと」を条件に、パイン・バレーという場所に行ってみました。実は、更なる採集地開拓も目的でした。
現地についてみると、意外と好採集地でした。ここで採集できたのはハーフォードモンキチョウ、チビキチョウ、アメリカタテハモドキ、アクモンミヤマシジミ、オオウラギンベニシジミ、ヒメアカタテハ、ルリボシヒメアカタテハ、バージニアヒメアカタテハなどで子供たちは大喜びでした。採集は出来ませんでしたが、カリフォルニアイチモンジ、アメリカキアゲハも確認することが出来ました。採集した蝶たちはいずれも子供たちが手にとって遊んだため、とても標本に出来る状態ではありませんでした(涙)。
ペニャスキートス・キャニオン
灯台下暗しとはよく言ったもので、家のすぐそばに谷があり、そこが自然公園となっているのに気づいたのは、ここに移り住んでから1年後くらいでした。小川が流れていて、程よい森もあります。家に近いだけあって、週末息子たちを公園に連れて行くついでに、よく寄っていました。入り口付近にはモルモンシジミタテハ、コビトシジミ、アメリカタテハモドキが飛び、川のほうへいくとアメリカキアゲハ、ヒメトラフアゲハ、モンシロチョウ、アメリカシロチョウ、アメリカオオモンキチョウ、マリンウラナミシジミ、ヒメアカタテハ、カリフォルニアイチモンジ、アメリカイチモンジなどを見ることが出来、また採集することが出来なかった黒いアゲハチョウと、大型のキチョウを見ました。
最初は子供たちの採集地にということで、採集しては虫かごに入れ、家に帰ってからリリースを繰り返していましたが、秋ごろレンジャーから呼び止められ、リリースしているのであればOKだが、じつは採集禁止ということが分かりちょっと残念。採集しているときは沢山のジョギングやバイキングをしている人たちから声をかけられ、アメリカ人も意外と虫などに興味を持っていることが分かりました。というわけで、どんな蝶がいるかを調べるという名目で、2004年は許可を取ってから本格的に採集してみるのも面白いかなと思っています。もっとも、そんなことで採集許可が出るかどうかは分かりませんが。
▲春は意外と緑が多かったです。これは5月。
2003年の総括としてはこんなところでしょうか。さてはて、2004年はどんな年になるやら・・・
■ ■ ■ ■